漢方で*赤ちゃん迎える院長blog

生理は脳が起こしている~妊娠・出産と心のかかわり

先日、3回目の『天気の子』を観てきました。そういえば、今回の一連のblogを書こうと思いたったのも、『天気の子』を観たのがきっかけでした。だいぶ印象が薄れてきたので、blogを仕上げるためにも、もう一度観てきました。

感想は、やはり「病は気から」、そして「生理も気から」との印象でした。映画の中に『心は空とつながっている』という言葉がありました。言い替えれば『生理は心とつながっている』です。さまざまな要素からなりたつ生理。体の問題(体調・体脂肪・疲れ等々)と同じくらい、もしくはそれ以上に心の状態(妊活・仕事・生活等のストレス)が強く反映するのが、生理だと改めて感じました。

そして、この『天気の子』。英語の題名は『Weathering With You』。単純に『Child of Weather』ではないのです。勿論、Weatherは天気の意味ですが、Weatheringには困難を乗り越えるとう意味もあるそうです。長い人類の歴史の中で、幾度もなく人々を襲ってきた、台風や大嵐、豪雨や豪雪などの自然災害。また細菌やウイルスとの感染症との戦い。漢方の歴史もその感染症の戦いの中で生まれました。そして、それに皆が一緒になり協力し立ち向かい、その困難な状況を乗り越えていく。『Weathering』は、このような経緯の中で生まれた育った言葉であり、意味なのだと思います。

それは、ある面では現代の不妊治療にもつながります。ただただ不安感を煽り心を焦らす世間の風潮の中、その中でも、それに流されず自らの意識をMindSetして、『妊娠して、絶対に子供を産もう』という“強い心”を持つことが大切だと思います。昔から、不妊症の人はいました。しかし、これといった有効な治療のないまま、『35歳からは高齢出産、少しでも早く子供を作りましょう』との世の流れでした。高度生殖医療が進んだ今現在も、その流れは変わっていません。

40数年前、体外受精が世界で始めてイギリスで成功する以前より、妊娠は体全体を治すことが大切だとの考えで、父が日本での漢方不妊治療を始めました。当時は、西洋医学でも不妊治療といえば、AIH位しかなく、まして東洋医学(薬局漢方を含め針鍼灸)では父位でした。勿論、『妊活』などという言葉もないころです。卵管閉塞の人のために始まった体外受精は、今は不妊治療の主流になっています。その高度生殖医療は現在多いに発展しましたが、妊娠率の伸び悩みでか、最近ますます考えが大局を忘れ局所化しているように思われます。

今の高度生殖医療の従事者。日々の診療を通して感じるのは、ほんの一部の医療従事者しか体のことを考えていないということです(ビタミン剤やサプリ程度はだしていますが┅)。体があっての子宮・卵巣であり、子宮・卵巣があっての体ではありません。妊娠する場所は子宮・卵巣ですが、妊娠・出産は体全体でおこなうものです。晩婚化が進み出産年齢が高齢化したのは事実ですが、当時と今、この短い期間の中で、人間の体の仕組みは何一つ変わっていません。自然妊娠する位の力がないと高度生殖医療での妊娠も覚束無いと、考えます。

漢方医学は体の局所にとらわれずに、体全体を診て局所の病気を治す医学です。咳一つ取ってもそうです。漢方には『五臓六腑みな咳せしむ、ひとり肺のみに非ず』という言葉があります。咳は、体のあらゆる臓器が原因になって起こり、肺だけの原因ではありません、との意味です。その意味では体全体を診て、個々の体の不調( 生理不順や生理痛、体の結果として作られる基礎体温の乱れ。日常茶飯事にみられる便秘や頭痛もしくは性交痛やPMS等々。)を、一人一人に見合う漢方薬で治し妊娠に導く漢方治療は、こと不妊症においては無くてはならない存在です。

漢方には、『随症療法』という言葉があります。個人個人体質が違うので、各々の『症』に見合った処方をすることが、不妊治療にとっては重要です。また、日本漢方は腹診を得意とします。腹診には、問診や脈診・舌診そして理論だけでは説明がつかない、妊娠に必要な情報が隠されています。その上、妊娠する場所はそのお腹です。父は、日々の診察を通して、妊娠しにくい人のお腹は硬く、妊娠しやすい人のお腹は軟らかいことに気づきました。漢方薬で『冷え』と『於血』を改善し、患者さんの本来備えている『腎気~腎精』を高め妊娠しやすい『突き立てのお餅のお腹』にすることに、全精力を注ぎました。不妊症で良く用いられる『当帰芍薬散』は、そのような事を行って服用する、最後の仕上げの薬です。

排卵→生理。低温期→高温期。妊娠→出産は一つの自然の流れです。人間が生きていれば結果として自然に起きる現象であり、それは人間の持つ自然の流れです。その自然の流れが乱された時、そこに何かしらの障害があるはずです。その障害を取り除くことが、自分自身が本来備えている妊娠力を高めることになるのです。

現在の不妊症の治療をみていると、AMHが低値→直ぐにも閉経します→一刻も早く体外をしましょう┅、患者さんの心を焦らせる不妊治療のなんと多いことでしょうか。妊娠は最後は出産しなくては意味がありません。そのための体作り母体作りです。焦る心だけでは体は追いて来てくれません。

排卵も生理も、気持ちに左右される部分が大きいと思います。それは、生理がやはり、視床下部の指令(脳)→排卵(卵巣)→生理(子宮)の流れの結果として、起こるものだからです。高度生殖医療も妊娠・出産という流れの中では、一つの通過点に過ぎません。自然妊娠にしても高度生殖医療にしても、最後の目標は患者さんが子供を授かることです。

自らの体を省みて、まずは妊娠・出産する母体作りを行うことが大切です。そして、いつも診察で話すことは、漢方薬を服用することも当然大切ですが、食事・睡眠・運動の養生も大切ということです。一日30品目食べることを意識する。最低6~7時間は寝ること。週2回は必ず運動をすること。そして、仕事や生活の上でのストレスは最小限に止め(難しいことですが┅)、決して仕事で無理をして体調を崩さないことが大切だと話しています。

このような何気ない日々の生活を意識することが、自らの体に備えている『自然力』を高めていくことになるのです。そして、それが患者さん一人一人の持つ『妊娠力』を高めることにもなり、結果として、良い排卵、良い生理となり、良い妊娠、良い出産へと結びつくのだと、日々の診療を通して感じています。