漢方では、「気」が全身をめぐり元気を作ると考えます。不妊治療でも大切になるのは体内の「気」の巡りを高めることです。漢方では、体を健康な状態に保っている要素を「気・血・水」と考えます。それぞれが生命の源となるものであり、このうちのどれか一つが乱れても体によくありません。この3要素が体内をバランスよく流れ、めぐることが健康を保ち、妊娠力を高めることになるのです。漢方は身体全体を治す総合医療です。不妊治療もその考えにもとづきアプローチします。

また、漢方には『未病』という言葉があります。『未病』は本人にとっては「冷え」や「便秘」、「頭痛」、「生理痛」などの日常生活の中のありふれた症状かも知れません。事実、当院に妊娠を希望して来院する患者さんの多くは、器質的には問題はありませんが、「生理不順」や「生理痛」、「PMS」などの機能的問題を抱えています。しかし、漢方の考えではこれらの症状や状態も『未病』の一つと捉えます。漢方不妊治療とは、「冷え」と「瘀血」による『未病』の状態から体を健康な状態にし、妊娠しやすい母体にすることです。その結果として卵子の質や子宮内膜が向上し、自然妊娠は勿論ですが高度生殖医療においても妊娠力を高め妊娠・出産につながっていくのだと考えます。

Keywordは「冷え」と「瘀血」そして「母体づくり」です。

冷えについて

漢方の考え方でいえば、不妊の原因は冷えといっても過言ではないでしょう。それほど冷えというものは体の本来の機能を低下させます。たしかに冷えは病気ではないかもしれません。しかし、人間の持っているあらゆる機能を低下させます。もともと下半身は冷えやすいため、子宮・卵巣の機能が冷えるとさらに機能は低下していきます。

瘀血について

漢方でいう不妊のもうひとつの大きな原因、それが瘀血です。瘀血とはうっ滞している血液。古血(ふるち)ともいいます。今でいうドロドロ血液です。それをサラサラ血液にし、血液の循環を良くします。瘀血が体内にたまると、体の様々な機能に悪い影響を及ぼします。特に女性の子宮・卵巣は瘀血の影響を受けやすいところです。瘀血がたまることにより、排卵障害や生理不順、および生理痛などを起こし、人によっては子宮筋腫・卵巣のう腫・子宮内膜症などの原因にもなります。もちろん、不妊の大きな原因にもなります。

母体づくりについて

漢方の不妊治療とは子宮・卵巣を赤ちゃんのできやすい環境にすること。要するに母体づくりにあります。肥満気味の人は体重を減らし、余分な脂肪を取り、瘀血をなくすこと。体内に余分な水分の多い人は、水分代謝をよくすること。逆に胃腸が弱く体重の少ない人は、胃腸を強くし、体重を増やし、お腹をふっくらさせ、子宮・卵巣に栄養をつけること。冷えの強い人は冷えを治すことにより温かい子宮・卵巣を作り、本来の自分のホルモン・バランスにしていくこと。このような母体づくりが大切です。冷えや瘀血の蓄積や、冷えた脂肪のつきすぎのままでは、いくら西洋医学的治療(ホルモン治療・人工授精・体外受精等)を試みてもなかなか妊娠するのは難しいと思われます。妊娠し、出産までのあいだ維持できるお腹、お腹の中で赤ちゃんをはぐくみ育てることのできる母体づくりが重要なのです。

漢方不妊治療の実際

西洋医学では卵巣に問題があれば「卵巣機能不全」という病名がつき、その「病気」に対する治療が行われます。それに対し漢方では、体質や不妊の要因など「体全体」を見て治療方針を立てていきます。漢方におけるこうした診断のことを「証を見極める」と言います。 そのための診断が「望診・聞診・問診・切診」の「四診」です。そこで得た情報を「気・血・水」「陰陽」「虚実」「表裏」「寒熱」といった漢方医学の判断基準に当てはめ、総合的に治療方針を立てていきます。四診の中で、当院が重視しているのが「問診」と「腹診」です。「腹診」とは、医師が直接患者さんの身体に触れて診断する「切診」のひとつです。何といっても漢方不妊治療では「腹診」によって得られる「腹証」が漢方薬を処方する際の大きな決め手になります。